森岡毅氏が率いる、マーケティング精鋭集団「刀」と丸亀製麺との協業が、2019年6月25日に公表されました。
なぜ両社がタッグを組むに至ったのか、具体的なマーケティング施策を、MBAマーケティングの観点からの解説を踏まえて説明していきます。
経営者やマーケティング関係者は必見です。
森岡毅と丸亀製麺の提携
森岡毅氏と丸亀製麺が2018年秋から提携を開始しました。
森岡毅氏は2019年1月に施策をスタートさせから、たったの4ヶ月間で、20%もの集客数の伸び率を記録しています。
出典
株式会社刀HP
両社が提携した理由
そもそも、なぜ両社が提携に至ったのかというと、近年の丸亀製麺は業績が低迷しているためです。
丸亀製麺の2019年3月期決算では、以下のように利益が激減し、来店客数も頭打ちとなり、業績悪化が目立ちます。
- 2019年3月期の連結営業利益が23億円で、前期比で70%も減少。
- 2019年3月期の既存店客数は全ての月で前年実績を下回る。
出典
株式会社トリドールホールディングス
2019年3月期 決算説明資料
このような、業績の落ち込みに頭を悩ませていた、丸亀製麺の代表取締役社長:粟田貴也氏が2018年秋にコンサルティングを依頼したのがマーケティング精鋭集団「刀」の代表を務める森岡毅氏でした。
森岡毅氏が2019年に出版したベストセラー書籍「苦しかったときの話をしようか」において、キャリア論を執筆した理由を知りたい方はこちらの記事をどうぞ。
森岡毅のブランディング
森岡毅氏は、「丸亀製麺が持つブランドエクイティは何なのか」という点を考え抜きました。
その結果、「他社にはない丸亀製麺の強みは、麺の食感である」と判断を下しました。
例えば、丸亀製麺は麺を作り置きせず、うどんを店舗内で製造することで生み出される「もちもち感」に森岡毅氏は注目し、それを全面に押し出すテレビ CM を制作しました。
CM制作においては、株式会社刀の顧問である堀要子氏も関与していると思われます。
2019年1月28日 :「ここのうどんは、生きている」施策をスタート
2019年1月28日に「ここのうどんは、生きている」施策をスタートし、テレビ CMが放映されました。
この CMでは、森本レオさんがナレーションを務めており、30秒間のコマーシャルとなっています。
CMでのナレーションは以下の通りです。
「美味しいうどんは、打ち立て生でこそ。だから丸亀製麺は、全てのお店で粉からうどんを打ちます。工場も持たず、作り置きしないのは、全国チェーンでは私たちだけ。こうしなければ、本当の「もちもち」は生まれないと信じています。ここのうどんは、生きている。丸亀製麺」
森岡毅氏はこの CMを通し、「丸亀製麺は他社のチェーン店とは違って、麺を店舗で製造しているので美味しいですよ」、との差別化を行なっています。
またCMだけではなく、おそらく店舗内での
- 接客工程
- 顧客への声かけ
- 新クーポンの発行
などを通じて、顧客アプローチの改善も併せて多数行われたはずです。
2019年5月13日 :「丸亀製麺のSNS 放題」の新CMを公表
そして、2019年5月13日には「丸亀製麺のSNS 放題」という 新CMを公表しました。
このCMのナレーションは以下の通りです。
『丸亀製麺はSNS放題。SNS放題。SNS放題。丸亀製麺はいつでも「しょうが、ねぎ、すりごま」のSNSが盛り放題0円。ニッポン。丸亀製麺』
ソフトバンクCMに出てくるお父さん犬のマークも出てくる事から、これは間違いなくソフトバンクとの提携を通した上でシナジー効果を狙っています。
この CM の配信と同時に、ソフトバンクの携帯キャリアユーザー向け無料キャンペーンである、「5月SUPER FRIDAY」では、ソフトバンクからSMSで、「丸亀製麺のうどん1杯無料クーポン券」が配信されてきたので、森岡毅氏のマーケティングと密接に絡んでいることは明らかです。
その結果、森岡毅氏は前述の通り、2019年1月29日時点から2019年5月末までのたった4ヶ月間で、丸亀製麺の集客数を20%もV字回復させることに成功しました。
2019年6月3日 : 丸亀製麺 ブランドCM 「丸亀食感」篇を公表
さらに2019年6月3日に、丸亀製麺のブランド構築のために、こちらの15秒間の新CMを公表しています。
CMのナレーションは以下の通りです。
「丸亀製麺は全ての店で粉から作る。工場も持たず、作り置きもせず、できたてしかお出ししない。だからこその噛み心地。これぞ丸亀食感。丸亀製麺。」
これらの一連のマーケティング施策から、森岡毅氏の「丸亀製麺が持つ強みを前面に押し出すことで、顧客に訴えかけ、差別化を図る」という、ブランド構築の意思が垣間見えます。
森岡毅による丸亀製麺のブランディングを、MBAマーケティングの観点で解説
森岡毅氏による丸亀製麺のブランディング戦略を、MBAマーケティングの観点から解説していきます。
ブランドとは
ブランドとは、単なる名前やマークなどではなく、企業と消費者に多様な価値を提供する資産です。
企業の利益拡大に貢献する強力なブランドは、継続的であり一貫性のある投資を行った結果、生まれるものです。
例えば、「うどんと言えば、丸亀製麺」と顧客が考えてくれるように促すことが、ブランドの構築に当たります。
一貫性を持つことで自己信頼感を高めたり、ブランディングになるという点については、「【一貫性とは】信頼される企業と人のブランディング【一貫性の原理】」をご参照ください。
ブランドの意義
ブランドの意義は、
- 競合相手
- 競合製品
- 競合サービス
との違いを明確にするということを目的としています。
また、ブランドとは、
- 名前
- 言葉
- デザイン
- シンボル
- それらを組み合わせたもの
を指しており、差別化をする際のコアとなるものです。
特に、
- 各社の製品自体に大差のない場合や、
- 機能面の差別化に多大な時間や労力を必要とする場合
には、ブランド構築が大きな差別化の武器になります。
丸亀製麺が扱っているうどんは、コモディティと呼ばれるものであり、日本全国どこでも扱っているものです。
例えば、あなたはうどんを、近所のうどん屋で食べることもできるし、機能面、つまり味の面でもで大差はない商品です。
だからこそ丸亀製麺は、優れたブランド力の構築が必要なのです。
これは森岡毅さんが以前勤務していたP&Gが扱うシャンプーなどのヘアケア商品とうどんは、コモディティという点で類似しているからこそ、このたび丸亀製麺から森岡毅氏に声がかかったのだろうと推察されます。
そのため、丸亀製麺にとって、
- 強いブランドを育て、
- ブランド・ロイヤルティを高める
ということは、重要な戦略課題です。
ブランドの価値は一朝一夕に高められるものでありません。
一貫したコミュニケーション活動はもちろんのこと、
- 高い品質
- サービスの維持
- 行き届いたアフターサービスの提供
- 環境保全への取り組み
- 地域社会への貢献
など地道な努力の積み重ねが必要になります。 そのため森岡毅氏は、様々な一貫した施策を積み重ね、今後も継続していくことが予想できます。
ブランドの役割
ブランドには主に三つの機能があると言われています。
識別機能
一つ目は購買に関する情報処理の時間やコストを節約する識別機能です。
顧客は購買に対して、リスク回避のために多様な情報を収集します。
しかし製品のすべてを完全に理解することは難しいため、ブランドを目印に製品を認識することも多いです。
例えば家族で外食に出かける時に、「うどんを食べたいな」と考えた時に、「丸亀製麺であれば、うどんを食べることができる」と認識することができればしめたものです。
品質保証機能
二つ目は購買リスクの軽減・回避に役立つ品質保証機能です。
顧客は過去の購買経験や他者からの評価などをもとに、そのブランドは信頼できると確信したら、それ以上の情報収集はしなくなります。
「丸亀製麺なら、割安な値段で、美味しいうどんを食べることができる」と、顧客にひとたび経験させることができれば、顧客はその後は深く考えずにリピートを繰り返してくれます。
それを促すために、丸亀製麺は大幅な割引クーポンを毎月発行して新規顧客を獲得しているのです。
自己実現の手段になる「意味づけ」の機能
三つ目はブランドによって満足感が高まったり、自己実現の手段になる「意味づけ」の機能です。
リーマンショック以降の不況時でも、ルイヴィトンやエルメスなどの人気が衰退しないのは、ブランドから連想されるイメージが良好なものであり、ロイヤルティの高い顧客が多数存在するからです。
それと同様に、丸亀製麺も「短時間ですぐに調理してくれて、美味しいうどんを食べることができるお店」というブランドの意味づけを顧客が行なってくれれば、高価格帯の季節限定メニューの販売を容易にするプロモーションへと繋げることができます。
強固なブランドを所有することで得られる効果
強固なブランドを所有することで、企業は以下6つの効果を得ることができます。
- 商標権を設定することによる、法的保護が受けられ、競合企業との差別化を行うことができる。
- 顧客のブランドロイヤリティを得ることで、安定的な売り上げを確保できる。
- プレミアム価格の設定が可能となり。プロモーションへの依存度が小さくなることで、高い利益率を実現することができる。
- ブランドの拡張をすることにより、成長機会を増進できる。
- 流通チャネルが販売リスクを低減させるために、積極的に取り扱ってくれる
- 新規参入者に対する障壁となり、競争優位の構築に貢献する。
例えば、うどん業界では、丸亀製麺のライバルと言われる、
- はなまるうどん
- 杵屋
- 山田うどん
- 味の民芸
などの競合他社との差別化を図るために、他社には無い、自社だけの特性として、前述のCMを打ち出しています。
これこそまさに、顧客のブランドロイヤリティを得るための大々的な施策と言えます。
例えばCMのナレーションに出てくる、
- 「工場も持たず、作り置きしないのは、全国チェーンでは私たちだけ。」
- 「ここのうどんは、生きている。」
という内容は、競合他社であるライバル達を潰しにかかるものであり、「ここのうどんは、生きている」という言葉の裏返しは「他社のうどんは、死んでいる」とも受け取れます。
言い換えると、森岡毅氏のマーケティングはライバル企業に対し、非常に攻撃的なマーケティングであるとも言えるでしょう。
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森岡毅についてもっと知りたい
森岡毅氏について、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
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