クラウゼヴィッツの戦争論を元に、
- ビジネスにおいて、攻撃より防御が重要である理由や、
- 「クラウゼヴィッツの戦争論」と「孫子の兵法」の違い
を説明していきます。
巧みな戦略構築を行うことにより、「最小の努力で最大の効果を上げたい」経営者やビジネスパーソンは必見です。
クラウゼヴィッツの戦争論とは
クラウゼヴィッツの戦争論とは、1832年にカール・フォン・クラウゼヴィッツによって出版された有名な著書です。
この本では、戦争を有利に進めるための戦略を説明していますが、軍事戦略だけではなく、ビジネス戦略構築にも応用することができます。
USJをV字回復させた森岡毅さんも、著書の中でクラウゼヴィッツの戦争論が最も参考になった教科書であると大絶賛しています。
私自身も熟読しましたが、最も参考になったことは、戦争論の中に出てくる防御に関する、
「(a+b)-(a-b)=2b」
という公式です。
これは、攻撃をする側と、防御をする側との力の差を示すものです。
攻撃側よりも防御側の方が2bだけ有利に戦局を進めることが出来るという意味です。
言い換えると、クラウゼヴィッツは戦争論において、以下のように主張しています。
「軍隊が一対一で戦った時に、攻撃をする側は防御をする側と比較して2bだけ不利になってしまうので、敵をおびき寄せて防御に徹して、敵が弱ってきた所を狙って全力で撃滅させよう!」
確かに、守っている方が自分の陣地で戦っているので物資の補給も簡単にできるし、建物(砦)もあるので守りに有利です。
戦争論は、様々な場面に適用できる
戦争論で述べられている戦略は、戦争だけに限らず、
- ビジネスにおける場面や
- 身の回りの生活における様々な場面
にも応用することができます。
例えば年収1000万になりたいなどと考える人がたくさんいますが、年収1000万円の人よりも、貯蓄が1000万円ある人の方がすごいです。
なぜならば、年収1000万円を稼げたとしても、手取り収入がいくらになるのかを計算しなければ意味がないからです。
なぜ手取りという考えが出てくるかというと、収入は税金をかけられて差し引かれるものであり、税率も収入が上げるほど累進課税されてしまうので、手元に残る手取り収入が減ってしまうからです。
収入増加により生じる累進課税の問題について、詳しくこちらの記事をご覧ください。
また個人事業主や法人経営者の場合は、経費がかかってくるので、売上1000万円が単純な収入ではありません。
売上から経費や税金を差し引くと、手取り年収がたった100万円以下になってしまう経営者がたくさんいます。
そのため個人事業主の場合は、収入額ではなく、手取り収入額、つまりは利益額を比較することで内情が見えてきます。
ここでいう利益額を考える時に、クラウゼヴィッツの戦争論で説明されている防御の重要性が当てはまります。
企業は利益を出すことを目標にするべきであるにもかかわらず、短期的な売り上げを伸ばそうとして、割に合わない過剰な経費を使っている企業や個人事業主がたくさんいます。
その事例を、こちらの記事で詳しく説明していますので、参考にされてください。
むしろほとんどの経営者が売上を上げればいいという発想で仕事をしているので、すぐに倒産したり、事業から撤退してしまう傾向があると思います。
ほとんどの業種において、長期で継続しなければ利益は出ないはずです。
しかし言いかえれば、長期で継続しさえすれば勝機は見えてきます。
詳しくはこちらの記事をどうぞ。
短期的に利益を狙いに行くのであれば、相当な理由がなければうまくいかないだろうし、うまくいったとしても、長期的に見たら損をしてしまうような経営者がほとんどだと思います。
ここで言う相当な理由とは、絶対にうまくいくであろうタイミングで賭けに出るということです。
というのも、長期的な利益が得られなければ、短期的な利益を追い求める理由は何もないからです。
このように、防御の重要性は、軍事的な戦争だけではなく、経営における様々な場面にも当てはまります。
経営における防御とは、流出を防ぐ事
経営において流出を防ぐ事が、戦争論で説明されている防御に当たります。
例えば、
- 従業員の離職率が高かったり、
- あるいはお客様の解約率が高かったり
する場合に、「敵からの攻撃にあっている」と捉えることができます。
他にも攻撃の例としては、例えば他社の方が自社よりも
- 業務時間が短く、
- 給料も高い
- 福利厚生も整っている。
さらに、該当の他社から「一緒に働かないか?」などと勧誘を受けた場合は、転職したいと従業員は考えてしまうことでしょう。
そのような場合も、他社からの攻撃に合っていると言えます。
しかし、前述のとおり、防御側は有利に戦局を運ぶことが出来るので、従業員から退職の相談をされたとしても焦ってはいけません。
また、従業員ではなく、顧客の場合においても、「他社の方がより安く、より質の高い商品があるので、契約を乗り換えたい」とお客様が解約をご希望されている場合など、様々な「敵からの攻撃にあっている」場面はありますが、焦る必要はありません。
これらの「攻撃からの防御」を完璧にこなすことによって、攻撃に徹するよりも有利に戦局を運ぶことができるからです。
ここで、営業職に当てはめて考えてみましょう。
経営者が雇っている従業員は、「いかに多くの売り上げを上げるか」に注力するべきではありません。
そうではなく、
- 「いかに解約率の低い契約をあげるか」、あるいは、
- 「いかに短い労働時間で、多くの契約にあげることができるか」
など、費用対効果の高い成果をあげることを私の中では防御と呼んでいます。
会社が本当に欲しいのは利益であり、売上ではありません。
上記のように量ではなく、質にこだわるようにすれば、自ずと従業員に対する
- 教育方法や
- マネジメント方法
も変わってくるはずです。
また、従業員が顧客から多くの追加契約を頂いたとしても、短期解約が相次いで発生するとしたら、逆に契約したことで損に至ってしまうことにもなりかねません。
そのため従業員がお客様へのアフターフォローをしっかりすることによって、長期的なお客様の顧客満足度を高めることができます。
このように、流出を抑えることに徹することを防御とよびます。
一方で、追加契約をあげようとすることを、攻撃と呼びます。
新規契約の件数を増やすことと、解約件数を減らすこと、どちらが経営者にとってお金がかからずに成果を上げることにつながるのかは一目瞭然で後者(防御)です。
お金をどれだけ稼げるかや、いかに投資で増やすかだけではなく、どれだけ無駄な出費を減らすことができるか(防御)に専念した方がお金は効率的に貯まるはずです。
そのため、あなたも攻撃ではなく防御に徹しましょう。
そうすれば、あなたも利益を増やすことができます。
具体的なアフターフォローの方法については、こちらの記事をどうぞ。
クラウゼヴィッツと孫子の違い
クラウゼヴィッツと孫子の違いは、「戦争はやり直しがきくものであるか否か」という点であり、対極的な考えであると言えます。
例えば、クラウゼヴィッツの戦争論は、戦争の勝敗が決まった時に講和条約を結び、再度紛争が発生した場合に、戦争となり、その後にまた講和条約を結ぶ。
このように、戦争と講和条約のサイクルがあることを前提に考えていたことが伺えます。
一方で孫子は、戦いは一度きりのものであると捉えています。
例えば、
- 国家は滅んでしまえば、その時点で終了である。
- 人間も死んでしまえば、二度と生き返るものではない。
このように、戦争は一発勝負であると捉えていたので、それが孫子の兵法に反映されています。
さらにそれぞれの戦略を詳しく知りたい方は、こちらの書籍が分かりやすいのでおすすめです。
コメント
はじめまして。
大変興味深く拝読しました。
今戦争論(岩波文庫)を読んでいる者なのですが、遅々として進まず、上記の「(a+b)-(a-b)=2b」という防御が有利という公式はどの項に出てくるのでしょうか?お手数おかけしますがご教授いただけますと幸いです。
タバタさん。ご質問ありがとうございます。
確かに、この本に書かれている言葉が難解で、読むだけで疲れるので中々読書が進まないですよね。
「(a+b)-(a-b)=2b」という公式は、紙の書籍版である、「戦争論 上 (岩波文庫) 文庫 – 1968/2/16」の P335に記載がありますのでご参照ください。
ありがとうございます!大変助かりました。とりあえずこの公式の根拠が知りたく、先走って読んでしまいましたが、やはり少しずつでもじっくり読みたいと思います。