「中小企業白書2019」を元に、中小企業経済の動向を紹介していきます。
中小企業は、全企業の99.7%を占めます。
また中小企業の従業者は、全体の約70%を占めます。
そのため、日本経済の現状を理解するためには、中小企業について詳しく知る必要があります。
そこで、財務データや人手不足の面などから、近年の中小企業の現状と課題を分析していきましょう。
中小企業基本法上の中小企業の定義
まずここで述べる中小企業とは、中小企業基本法第2条第1項の規定に基づく中小企業者をいいます。
また小規模企業とは、同条第5項の規定に基づく小規模企業者をいいます。
さらに中規模企業とは、小規模企業者以外の中小企業者をいいます。
中小企業者や小規模企業者については、具体的には以下の表に該当するものを指しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
なお上記に記載した業種に関して、以下に述べる業種については、中小企業関連立法における政令に基づいて以下のように定められています。
- 《中小企業者》
- 製造業ゴム製品製造業
- 資本金3億円以下、または常時雇用する従業員900人以下
- サービス業
- ソフトウェア業や情報処理サービス業
- 資本金3億円以下または常時雇用する従業員300人以下
- 旅館業
- 資本金5000万円以下、または常時雇用する従業員200人以下
- 製造業ゴム製品製造業
- 《小規模企業者》
- サービス業
- 宿泊業や娯楽費
- 常時雇用する従業員20人以下
- サービス業
2018年度の中小企業の動向
中小企業の動向
日本経済は2012年末から持ち直しの動きに転じました。
また緩やかな回復基調が続いた結果、現在の景気回復の長さは、いざなぎ景気(1965-1970年)を超えて、さらに戦後で最長の景気拡張期となりました。
また、第14循環の景気拡張期(2002-2008年)も超えて、新たに戦後最長の長さとなった可能性すらあります。
企業収益の拡大や、倒産件数の減少が続いています。
また経済の好循環が浸透する一方で、2018年は度重なる災害をはじめとした人手不足の深刻化や、労働生産性の伸び悩みなどの中小企業にとっての懸念点が浮き彫りになる1年間となりました。
これ以降では、近年の中小企業の経済動向について説明していきます。
日本経済の現状
まず、日本経済の現状について説明していきます。
実質GDP成長率の推移を見てみると、2018年の年間成長率は0.8%となっていて、2017年を下回っています。
2018年の動きについて四半期別に見てみると、第3四半期には平成30年7月の豪雨による自然災害が原因となる押し下げがありました。
しかし、第4四半期には、個人消費と設備投資が増加しています。
明中に支えられた成長となっているようです。
ただし情報関連財を中心とした中国向けの輸出の影響もあって、外需寄与度がマイナスとなっていることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に産業面の活動状況についてみていきましょう。
まず、経済産業省の以下3つの指数と、それらを併せた全産業活動指数から確認していきます。
鉱工業生産指数 + 第3次産業活動指数 + 建設業活動指数 = 全産業活動指数
まず鉱工業の活動状況については、2016年第2四半期以降は上昇してきました。
しかし2018年に入ってからは、それまでの水準を維持していながら、上がったり下がったりの動きを繰り返しています。
次に各種サービス業や小売業などの第3次産業に関しては、2014年第2四半期を底に回復してきています。
2018年第4四半期は、現行基準では過去最高水準となっています。
建設業に関しては、2017年第2四半期に消費増税前のピークである、2013年第4四半期を超える水準となりました。
しかし、その後は低下傾向にあります。
最後に前述の三つの指標を統合した全産業活動指数を確認してみましょう。
産業全体としては2014年第3四半期以降、緩やかな回復基調が続いています。
2018年は、第3四半期には災害の影響もあって足踏みしましたが、その後は再び回復基調に戻っています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に業種別に、企業の景況感の推移を見ていきましょう。
日本銀行の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の業況判断DIの推移を確認していきます。
業況判断DIとは
- 前期に比べて状況が好転と答えた企業の割合から、悪化と答えた企業の割合を引いたもの。
製造業と非製造業の両方とも、リーマンショック以降は回復基調が続いていました。
しかし、2018年半ば以降の状況については、良いと答えた企業の割合が、悪いと答えた企業の割合を上回ってはいましたが、ほとんど横ばいで推移していっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
中小企業の現状
前の項では、以下3点についてみてきました。
- 2018年における実質GDP成長率が好調に推移していること
- 企業活動の活発化が続いていること
- 状況が緩やかに回復服していること
そこでこの後は、中小企業に焦点を当てて、以下の6点などに関連した状況について、大企業との比較をしながら確認していきます。
- 業況
- 収益
- 投資
- 資金繰り
- 倒産状況
- 取引関係
業況
まず、中小企業の業況について確認するために、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構の「景況調査」の業況判断DIの推移を確認していきます。
調査対象の80%が小規模企業であることから、業況判断DIの推移を用います。
これを見てみると、中小企業の状況はリーマンショックの直後に大きく落ち込みました。
その後、東日本大震災や消費税率引き上げの影響で、ところどころ落ち込みが見られます。
しかしその後は、全体的に緩やかな回復基調にあります。
2018年の動きについては相次ぐ災害の影響もあって、第3四半期に1度落ち込んでいますが、その後は回復基調にあります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に上記図の業況判断DIについて、地域別業種別に分解していきます。
さらに、近年の国内情勢と照らし合わせて考えていきます。
まず地域別に見てみると、2018年第3四半期に前期比で1.5ポイントマイナスとなっています。
近畿・中国・四国・九州などの平成30年6月の大阪府北部地震、また平成30年7月豪雨、そして台風21号による被害が大きい地域が押し下げている要因になっています。
第4四半期に関しては、北海道胆振東部地震があった北海道が押し下げ要因となっていますが、九州を除いた全ての地域が押し上げ要因となっています。
そして以下の図を見ると、全国的に見て状況が回復しつつあることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに業種別に見てみると、災害発生直後の2018年第3四半期で、ほとんどの業種がマイナス方向に転じています。
特にサービス業で、状況が悪化したと回答した企業の割合が増加しています。
またそれまでプラスで推移していた建設業も、押し下げ要因となっています。
平成30年7月豪雨によって、以下2つのような声も聞かれました。
「被害が多大なため、通常業務が全く出来ない状況であった」
「災害工事があって仕事は多いけど、資金が間に合わない」
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
売上高
次に、中小企業の収益の状況について、財務省の法人企業統計調査季報を使って、以下3点の動きについて見ていきます。
- 売上高
- 経常利益
- 設備投資
まず売上高の推移について規模別に見ていきます。
リーマンショック直後に大企業も中小企業も大きく落ち込みました。
さらに、中小企業はその後、2011年の東日本大震災発生後から、2012年末まで減少傾向に転じました。
そしてその後の2013年第1四半期の123.6兆円を底にして、横ばい傾向が続いていました。
しかし、2016年の第3四半期に上昇傾向に転じてからは10期連続で上昇しています。
つまり、経済の好循環が中小企業にも浸透しつつあるということが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また2017年から2018年の売上高の増加分については、規模別と業種別に分解して比較していきます。
大企業では卸売業や製造業を中心に、小売業以外の全ての業種が押し上げ要因となっています。
小売業についても押し下げ幅は1.4兆円でとどまっていることが、以下の図をみると分かります。
一方で中小企業について見てみると、以下4つの業種がそれぞれ押し上げ要因となっています。
- 製造業
- 建設業
- 卸売業
- サービス業
製造業とサービス業については、大企業を上回る増加幅です。
一方で、小売業がマイナス2.4兆円と比較的大きな押し下げ要因となっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
経常利益
次に、経常利益の推移について確認していきます。
中小企業の経常利益は、売上高と同様に、リーマンショックの直後に大きく落ち込みました。
しかし、その後は緩やかな回復基調が続いています。
2018年を通した動きを見てみると、やや横ばい傾向に転じています。
しかし過去最高水準となる2017年と、ほぼ同水準で推移しているとわかります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに経常利益を要因分解していきます。
2017年から2018年にかけての増減額の内訳について確認していきましょう。
まず大企業については、人件費が2.9兆円押し下げ方向に作用しています。
しかし、売上高要因が大きな押し上げ要因となっていて、全体として2.9兆円のプラスになっています。
その一方で、中小企業に関しては売上高要因は押し上げ要因の中心となってはいます。
しかし他方で、人件費の要因に加えて、変動費要因が押し下げ要因となっています。
押し上げ要因となっている売上高を上回る押し下げ幅であり、それを含めて見た場合に、0.6兆円マイナスとなっています。
変動費要因がマイナス方向に作用している点を考えると、中小企業が仕入れ価格を販売価格で上回ることができていないということが考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
設備投資
次に設備投資の推移について見ていきます。
直近10年間について見てみると、大企業も中小企業もリーマンショック直後の2009年に大きく減少しました。
しかし、その後大企業については2014年までは横ばいで推移してきましたが、2015年に入る頃からは少しずつ増えていきました。
そして2017年第4四半期から2018年にかけては上昇していっていて、近年では6.4兆円となっています。
一方で中小企業について見てみると2013年以降は少しずつ増えていきましたが、2016年以降はほぼ横ばいで推移しています。
最近は2.8兆円と大企業との差は拡大傾向にあることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また、設備を新設してからの経過年数を示す、設備年齢の推移についても見ていきます。
大企業と中小企業で、設備年齢が同じ水準だった1990年度の設備年齢の指数を100とします。
すると、中小企業の設備年齢はその後大企業を上回る勢いで上昇しています。
近年について見ると下降傾向です。
しかし大企業の設備の老朽化の度合いが、1990年度の約1.5倍であるのに対し、中小企業は約2倍も老朽化が進んでいることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
これに関連して君を規模別に研究開発位の費用の推移を確認していきます。
1970年を起点としたら、中小企業は緩やかな上昇基調で推移していっています。
しかしその一方で大企業について見てみると、全体的に右肩上がりで推移しています。
また、中小企業との差は年々拡大傾向にあることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに直近5年間分の、中小企業の貸借対照表の推移について見てみます。
負債と純資産の部では、利益剰余金等が増加傾向にあります。
資産の部では預貯金が増加する一方で、有形固定資産と無形固定資産が、ほぼ横ばい傾向にあります。
そのため、中小企業が設備投資に積極的に踏み切れていない様子がわかります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
続いて設備判断DIについて、その推移を確認していきます。
全体的にリーマンショックの後から過剰感が解消されてきました。
- 中小企業では2012年末に、
- 大企業では2017年前半に、
不足感が高まりつつある状況でした。
また製造業については2017年第2四半期までは、大企業と中小企業の水準に、差はほとんどありませんでした。
しかし、2017年第3四半期以降は中小企業の方がより強く不足感を感じていることが分かります。
それと同じように非製造業に関しても、2013年第3四半期までは規模の間における差異はほとんどありませんでした。
しかし2013年第4四半期以降は、中小企業の方がより強く不足感を感じています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
設備投資関連の現状把握の最後に、IT関連指標としてソフトウェア投資額やソフトウェア投資比率の推移について見ていきます。
大企業と中小企業の投資額には、大きな差が生じています。
ソフトウェア投資比率に関しても、中小企業は大企業を下回っています。
しかし2016年第4四半期以降伸び始めていましたが、近年の2018年について見てみると足踏みしていることはわかります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
資金繰り・倒産
まず、中小企業の資金繰りについて、景況調査を使って確認していきます。
リーマンショックの後に大きく落ち込みました。
その後は東日本大震災や、2014年4月の消費税増税の反動減で、ところどころ落ち込んでいます。
しかしおおむね右肩上がりで増加していっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また中小企業向けの貸出金の推移について確認していきます。
2012年まではおおむね横ばいで推移してきました。
しかし、2013年以降は右肩上がりで推移していっています。
近年については、統計開始以降過去最高水準で推移しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして、倒産件数の推移について確認していきます。
前述の通り良好な資金繰り環境が見られます。
倒産件数は2009年以降10年連続で減少しています。
2018年の倒産件数は8235件となっていて、バブル期の1990年以来28年ぶりの低水準となりました。
規模別推移について見てみると、中規模企業は年々減少傾向にあります。
小規模事業者についても倒産件数の大部分を占めていますが、中規模企業同様に減少傾向にあります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また廃業件数について見てみます。
倒産件数が減少傾向を続けていますが、その一方で経営者の高齢化や後継者不足を背景に、休廃業や解散企業は年々増加傾向にあります。
3万件台から4万件台に推移していっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
取引関係
中小企業の取引環境については、仕入れ価格を販売価格にどれほど転嫁できているのかの指標として、日銀短観の販売価格DIから仕入れ価格DIを引いた数値である、交易条件指数について見ていきます。
1990年代までは、景気回復局面に、大企業と中小企業がほぼ同水準で推移する動きが見られました、また規模間の差はほとんどありませんでした。
しかし、2000年代に入ると両者の差は徐々に開き始めました。
近年も埋まらずに推移していっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
評論
世耕プランに基づく取り組みのさらなる浸透に向けて
2016年9月に世耕経済産業大臣によって発表された取引条件改善の対策パッケージ「未来志向型の取引慣行に向けて」(世耕プラン)に基づいて、中小企業庁は2018年度も様々な取り組みを実施してきました。
この評論では、2018年度における取り組みを中心に紹介していきます。
下請けGメンによる下請け中小企業ヒアリング2017年~
中小企業庁は2017年より、全国に80人規模の下請け地面を配置して、下請け中小企業へのヒアリングを実施しています。
下請けGメンが直接企業訪問してヒアリングすることによって書面調査や電話での聞き取り調査で聞くことができない取引上の問題の把握に繋がっています。
2018年4月には下請けGメンを120人規模に増強しています。
2019年1月末までに約7000件の下請け中小企業ヒアリングを実施しました。
自主行動計画策定団体によるフォローアップ調査2018年9月から11月
施工プランによる取り組みを浸透させていくために2019年2月末までに
- 自動車
- 素形材建設機械
- 繊維
- 電気
- 情報通信機器
- 情報サービス
- ソフトウェア
- 建設、
- トラック運送、
- 機械製造業
- 流通業
- 警備業
- 放送コンテンツ業
の12業種32団体において、取引適正化と付加価値向上に向けた自主行動計画を策定して公表しました。
2018年9月から11月にかけて、経済産業省所管の八業種26団体が自主行動計画の実施状況について自らフォローアップ調査を実施しました。
各団体所属の約7000社に調査票を発送して2416社(34%)の回答がありました。
自主行動計画のフォローアップ調査と下請けGメンによるヒアリング調査の結果を公表2018年12月
各団体において実施したフォローアップ調査の結果と、下請けGメンによるヒアリング調査の結果について取りまとめて、2018年12月に中小企業庁から公表されました。
調査結果からは世耕プラン重点三課題のうち、不合理な原価低減要請の改善と、下請け代金の現金払い化などの支払い条件の改善について取り組みが進んでいます。
その一方で方管理の適正化については改善の動きが鈍くなっているので、さらなる取り組みが必要であると言えます。
そのため、今後は型管理の適正化に向けた実態把握のための調査の実施を行っていきます。
またさらなる適正取り組みに向けて、業種特性に応じた講習会や各地域での普及や啓発を目的とした会議の開催により、きめ細やかな取り組みを行っていきます。
この取り組みはPDCAサイクルを回して、成果が出るまで粘り強く取り組んでいくことが重要です。
自主行動計画フォローアップ調査結果のポイント
重点三課題ごとの結果については、受注側における不合理な原価低減要請の改善や発注側や受注側両方における下請代金の現金払いについては改善が進んでいます。
その一方で、受注側の方、管理の適正化は改善の動きは鈍いです。
業界別では、自動車業、建設機械業は重点三課題全てが改善しています。
特に建設機械業の発注側に関しては下請け代金の現金払い化について10%から50%になるなど大幅に改善されてきています。
型管理の適正化については、素形材業の受注側での改善への動きが鈍いです。
下請けGメンによるヒアリング調査結果のポイント
2018年4月から10月末までに訪問した、3012社のヒアリング結果について分析を行ないました。
- 産業界別の自主行動計画や、取引適正化に向けた取り組みの認知度は、30%程度と低いです。
- 重点三課題ごとの結果については、支払条件は着実に改善が進んできています。
- 一方で、「型管理」については改善に向けた取組の進捗状況が鈍いです。
- 売上が増加している企業は増えています。
- しかしその一方で、原材料価格や人件費などのコスト価格が増加しているという声も、全体の80%以上となっています。
下請中小企業振興法、進行基準の改正について(2018年12月28日改正)
これまでの取引条件改善の取り組みを通じて把握した、新たな取引上の課題に対応するために、下請中小企業振興法の振興基準を、中小企業庁は平成30年12月28日に改正しました。
これは、大企業者間取引の手形払いなどの支払条件の改善や、取引慣行である金型の製造代金の分割払いの生成、また下請事業者の働き方改革を阻害する取引慣行の是正などを新たに規定しています。
取引適正化推進会議(2018年11月~)
全国各地で取引適正化の取組を浸透させるために、2018年11月から全国7地域で取引適正化推進会議を開催しています。
経済産業省や、行所管省庁の幹部が出席しました。
各地域の中核中堅企業から各社が抱える、取引上の課題を把握しました。
また取引適正化に向けた取り組みの要請などを行っています。
長時間労働に繋がる商慣行に関する調査について
中小企業庁に関して、これまでの調査は長時間労働に繋がる商慣行としての「繁忙期対応」と「短納期対応」が挙げられています。
今回その背景にある、実態の把握を目的として2018年12月にインターネット上で調査を実施しました、中小企業約7600社を対象に調査を行いました。
その結果2537社(33%)の回答がありました。
繁忙期短納期受注の発生状況
繁忙期について回答企業のうち70%の企業で繁忙期があるとの回答がありました。
特に建設業食料品、製造業紙紙加工産業印刷産業トラック運送業倉庫業では、それぞれの業界の中、80%以上の企業で繁忙期あると回答しています。
堪能き受注に関して、回答企業のうち約60%の企業で、直近1年間に短納期受注があったという回答がありました。
特に、紙・紙加工品産業、印刷産業、半導体・半導体製造装置産業、電気・情報通信機器産業で、80%以上の企業で短納期受注が発生しています。
繁忙期や短納期受注に関して主要取引先の業種について調査した結果、大半の業種で、同業種という回答が多かったです。
その一方で
- 食料品製造業、
- 紙・紙加工品産業、
- 素形材産業、
- 技術サービス産業、
- 卸売業
では、他業種が主な取引先として最も回答が多いです。
繁忙期、短納期受注の発生要因
繁忙期、短納期受注の発生要因については、取引上の問題としての課題を整理しました。
繁忙期の発生要因としては、問題のある受発注方法が常態化していることや、官公需発注等による年末・年度末集中が挙げられています。
短納期受注の発生要因としては、作業工程全体の中、前工程の作業の遅れによる後工程の下請企業への納期のしわ寄せがあります。
また、多頻度配送・在庫負担・即日納入といった「問題のある受発注方法」が挙げられている。
今後の対応について
「繁忙期」や「短納期発注」の発生要因の改善に向けて、各業界を管轄する省庁は、実習行動計画の策定要請や企業への周知徹底を行います。
また具体的な対応策を速やかに対策実施することにより、業種をまたぐ課題については関係省庁が連携して対応することとしています。
軽減税率制度の実施に向けた中小企業向けの支援を抜本的に強化
国と地方における、消費税率の引き上げと飲食料品などを対象にした軽減税率制度の実施が2019年10月1日に迫っています。
そこで全国の中小企業や小規模事業者、また商工会と商工会議所、更に事業協同組合などの中小企業団体などからの要望がありました。
また政府が行った事業者の準備状況等の検証作業の結果を踏まえて、中小企業庁は2019年1月と2月にレジシステム補助金を補助対象としました。
また補助率や補助対象事業者について大幅に拡充しました。
また中小企業団体と連携して、パンフレットの配布や説明会を開催することで周知広報を行いました。
相談窓口の設置による個別相談体制の構築にも取り組んでいます。
また、都道府県・市区町村、民間金融機関や税理士会、さらに青色申告会などに軽減税率対応の支援制度の周知や取り組みの支援を要請しました。
そしてレジメーカーとの連携強化を行うことで、中小企業や小規模事業者の軽減税率対応の推進に取り組んでいきます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
まとめ
2018年の日本経済は、それまでの緩やかな回復基調を維持しました。
中小企業や小規模事業者についても状況や資金繰りは回復傾向にあります。
また経常利益については過去最高水準を維持しています。
さらに倒産係数については10年連続で減少を続けて1990年以来28年ぶりの低水準にあるなど、中小企業と小規模事業者を取り巻く状況は改善しつつあります。
一方で、設備投資額が伸び悩んでいます。
製造業や非製造業の両方で、設備の不足感が増大しています。
また、大企業に比べて中小企業が仕入れ価格を販売価格に転嫁しきれていない状況にあります。
そのためこれらの課題に向き合って、中小企業と小規模事業者の、さらなる成長のための設備投資推進施策や取引条件の改善施策を行うことが重要であると考えられます。
中小企業の構造分析
ここまでの説明において、企業活動が活発化していることや、中小企業については、売上高や経常利益また資金繰り、そして倒産状況について、前年に引き続いて良好な状況であると説明しました。
しかし、その一方で、設備投資や取引環境については依然として改善の余地があるということが確認できます。
この項では企業数と従業員数の変化や、開廃業という観点から日本の中小企業の現状について説明していきます。
企業数の変化
まず日本の企業数の推移を確認すると、1999年以降は年々減少傾向にあります。
直近の2016年には359万社となっています。
このうち中小企業は358万社であって、その内訳は、小規模事業者305万社、中規模企業53万社となっています。
2014年から2016年の2年間の間に企業数は23万社6.1%の減少となりました。
希望別に内訳を見てみると、大企業が47万社増加しています、中規模企業が3万社減少しています。
小規模企業が20万社減少していて、特に小規模企業の減少数が多いことが分かります。
また、1999年を基準として希望別の減少率を見てみると、小規模企業は調査年ごとにマイナス幅を拡大させていて、減少傾向を強めていると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
ちなみにここでいう中規模企業というのは、中小企業基本法上の中小企業の中で小規模企業に当てはまらない企業を指しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また、中小企業の業種別の企業数と増減率の推移を確認していきます。
1999年時に比較して、電気ガス水熱、運輸通信業は企業数を増やしています。
一方で他の業種については減少傾向にあります。
特に鉱業や小売業については減少率が高いと言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
開廃業が企業に与える影響
ここまで企業数の推移に関し、規模別業種別にその内訳を見てきました。
これ以降では2012年から2016年に渡って、企業の開廃業が企業数と従業者数、また付加価値額の変化に与えた影響について見ていきます。
初めに開廃業が企業数に与えた変化について、その内訳を見ていきます。
まず2012年に存在した企業において、このうち295万社は2016年時点でも存在していました。
しかし、50万社は2012年から2014年に廃業して、33万社は2014年から2016年の間に廃業しています。
そのため2012年から2016年にかけて廃業による合計83万社の企業が減少しています。
それと同様に、2016年について見てみると2012年に存在しなかったが、2012年から2014年にかけて2216万社の企業が開業しました。
そして、2014年から2016年にかけて20万社の企業が開業しています。
そのため、2012年から2016年にかけて開業により、計46万社の企業が増加しています。
これらの傾向から2012年から2016年にかけて27万社の企業が減少していることが分かります。
次に改廃業企業の規模別の内訳について見ていきます。
まず開業起業について見てみると、以下のとおりです。
- 大企業改行が0.1万社
- 中規模改行が7.6万社
- 小規模改行が38.6万社
合計で46万社の開業起業のうち80%以上が、小規模企業であることが分かります。
その一方で廃業企業について見てみると、
- 大企業廃業が0.1万社
- 中規模廃業が7.5万社
- 小規模廃業が75.8万社
と、合計84万社のうち、90%以上が、小規模企業となっています。
開業起業と廃業企業の両方において、その大部分が小規模企業で占められているという点は共通しています。
しかし廃業企業における小規模企業の数が、開業起業における小規模企業の数を上回っています。
つまり、37万社が減少していると言えます。
そして、存続企業内における機母艦移動の状況について見ていきます。
存続企業のうち95%以上の企業については、規模の変化はありません。
しかし、
- 規模を拡大させた企業が7.3万社
- 規模を縮小させた企業が6.7万社
存在しています。
それらの中の大部分が小規模企業から中規模企業への拡大と、中規模企業から小規模企業への縮小で占められていることが分かります。
ここまでは開廃業が企業数の変化に与える影響について見てきました。
これ以降は従業員数の変化に与える影響について見ていきます。
まずは、2012年から2016年にかけての従業者数の推移について確認していきます。
これに関しては小規模企業において148万人減少しています。
その一方で、中規模企業については152万人、大企業については62万人の就業者数が増加しています。
つまり、大企業や中規模企業に従業者が集まっていることが考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに、
- 存続企業
- 開業企業
- 廃業企業
ごとに就業者数の増減について見ていきましょう。
所属企業のうち従業者が増加した企業では494万人が増加して、減少した企業では464万人が減少しました。
その結果、全体として30万人就業者が増えています。
開業企業においては中規模企業を中心として356万人の就業者が増加しています。
廃業企業では中規模企業と小規模企業を中心に、503万人の従業者が減少しました。
ここから廃業によって失われた雇用の多くは、開業企業が吸収していることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
最後になりますが、付加価値額の推移について、開廃業企業や存続企業別に内訳を見ていきます。
2011年から2015年にかけて開業企業によって創出された付加価値額と、廃業企業によって失われた付加価値額に差は生じていません。
その一方で、存続企業が157兆円から192兆円へと、約35兆円付加価値額を伸ばしています。
つまり、存続企業が稼ぐ力を身につけていると考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
まとめ
この項では企業数の推移を規模別業種別に確認して、企業の開廃業による企業数の変化や従業者数の変化、また付加価値額の変化について分析を行いました。
日本の企業数は規模別に見てみると、小規模企業の減少が影響しています。
また、業種別にみると、小売業の減少が影響して、減少傾向にあることが分かります。
また、開廃業が企業数の変化に与える影響については小規模企業の開廃業が開業数を倍近く上回っているため、全体として企業数が減少しました。
従業者数の変化に与える影響については、廃業が就業者の減少に与える影響が多いことが分かりました。
最後に付加価値額の変化を開廃業と存続企業別に見てみると、存続企業が付加価値額を伸ばしていることで全体の付加価値額を押し上げているということがわかりました。
日本全体の稼ぐ力をより強いものにするためにはこれまで述べてきたように、存続企業が付加価値額を増やすことはもちろん重要です。
しかし、稼ぐ力を持っていながら、後継者が確保できずに廃業せざるを得ない経営者の授業や経営資源の引き継ぎ、または新たに創業した企業が軌道に乗るまでの創業支援によって、これらの層の付加価値額を伸ばしていくことが重要であると言えます。
廃業と創業についての詳細は次の項で説明していきます。
財務データからみる中小企業の状況
これまで説明してきた通り、2016年時点の日本の企業の359万社の中で、中小企業は99.7%を占めていることから、極めて多様性があるといえます。
しかし、今まで大規模な財務データを利用して、中小企業の全体像をとらえると同時に財務データから見た中小企業の経年変化を捉える試みというのはあまりされてきませんでした。
そこでこの項では、大規模な中小企業の財務データを活用して、中小企業の全体像をとらえると同時に、中小企業における財務状況の経年変化を確認していきます。
また前述の通り、中小企業の設備投資は近年はほぼ横ばいで推移してきています。
そのため、大企業との差が拡大傾向にあります。
また設備の老朽化や設備の不足感が進んでいることが確認できました。
一方でコストをかけて設備投資を行なったとしても、企業のパフォーマンスが高まらなければ、設備投資を行う意味はありません。
近年の設備投資の低迷は、設備投資が業績に及ぼす影響が不透明で、経営者が投資に躊躇しているために発生しているという可能性があります。
そこで財務データを活用して、設備投資が業績に及ぼす影響についても分析を行っていきます。
また、ここにおける分析はCRD協会の法人データベースから抽出した、2007年度から2016年度までの10年間分のデータが利用されています。
財務面からみる中小企業の多様性
まず、中小企業の全体像をつかむために2016年のCRDデータ95万社の売上高と営業利益、総資産純資産の四つの財務諸表における中小企業の分布状況を見ていきます。
以下の図は、売上高から見た中小企業の企業構成割合の分布です。
中央値は9900万円で、売上高1億円以下の中小企業が全体の50%を占めています。
また厚生費として最も多いのは売上高300万円から4000万円の企業です。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
営業利益の分布としては営業利益の分布としては中央値の100万円の企業が集中しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また、総資産の分布では総資産の中央値が7000万円であるのに対して、構成比として最も多いのは、総資産2000万円から3000万円の企業です。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
最後に純資産の分布確認していきます。
純資産で見てみると中央値である6900万円に企業が集中しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
時系列でみる財務状況の推移
営業利益の推移
中小企業の財務状況の時系列の変化について見ていきます。
2007年度から2016年度に置いて、営業利益の黒字と赤字企業の割合の推移、です、これを見ると2008年に発生したリーマンショックの影響によって2009年度の赤字企業は1時的に50%まで増加しました。
その後は景気回復を背景に赤字企業の割合は緩やかに減少していきます。
2016年に35.3%にまで低下しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして中小企業は、どの程度安定して利益計上を行っているのかを確認していきます。
2007年度から2016年度まで連続で、財務状況を確認できる47万社についてです。
当該の10年間の営業赤字の回数を確認していきます。
これを見てみると、2007年度から2016年度の10年間の中で、5回以上の赤字を記録した企業は17万社で、全体の36%存在しています。
一方でリーマンショックや東日本大震災などの外的ショックに見舞われつつも、10年間連続で黒字計上を続けている企業も15%存在しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
純資産の推移
さらに資産超過と債務超過企業の割合について確認していきます。
営業利益で見た時と同じように、リーマンショック後の2009年度から2011年度にかけて、債務超過企業の比率が増加しました。
その後緩やかに債務超過企業の割合は減少していっています。
次に、2007 年度と2016 年度の2時点において、それぞれの自己資本比率の水準に対する企業数の構成割合の変化を確認していきます。
以下の図を見ると、2007 年度、2016 年度ともに、自己資本比率0%以上20%の中小企業が最も多いです。
しかし、2007 年度と2016 年度の2時点比較をすると、自己資本比率マイナス20%以上+40%未満の企業割合が減少し、マイナス40%未満の企業、+40%以上の企業割合が増加しています。
この10 年間、中小企業の間で、利益を確保し自己資本比率を改善できている企業と、そうでない企業の二極化が進んでいる可能性があります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に2007年度から2016年度に渡って、業績が変化しているのを確認していきます。
2007年度と2016年度の二つの時点で、財務データが確認できる63万社で、二つの時点における自己資本比率の変化を見たものです。
これに関しては2007年度時点において、自己資本比率がマイナス20%未満の企業の約79%は、10年後において自己資本比率がマイナス20%未満です。
ここから、大幅な債務超過に陥っている企業の経営改善の難しさが分かります。
一方で2007年度においては、自己資本比率がマイナス20%以上0%未満の債務超過企業に関して、32%の企業が資産超過に転じています。
ここから、債務超過が軽微なうちに経営改善を進めることの重要性が示唆されています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
最後としては、デフォルト(債務不履行)の状況について確認していきます。
2007年度に、財務データが確認できる企業の数は、約113万社存在していました。
2016年度までに確認できた企業を数は13万社(11%)でした。
そして、2007年度から2016年度までにデフォルト(債務不履行)した企業の13万社に関してみてみましょう。
2007年時点の自己資本比率の水準については、
- 自己資本比率マイナス20%未満の企業の約17%と、
- マイナス20%以上0%未満の約14%が、
10年以内にデフォルト(債務不履行)しています。
債務超過の大きい企業ほどデフォルト(債務不履行)率が高い傾向にあることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
設備投資が財務パフォーマンスに与える影響
この項では、CRDデータを利用して設備投資の効果測定を試みます。
設備投資が労働生産性などのパフォーマンスに与える影響を測定するためには、一つの企業が設備投資を行なった場合と、行わなかった場合の業績を比較することが最善ですが、そのようなことを比較するのは不可能です。
そこで今回の分析においては、傾向スコアマッチングと「差の差分析」という方法で、設備投資を行った企業と同じような傾向を持つ設備投資を行っていない企業を抽出して比較することで、同一企業の設備投資の有無を比較することと同等の分析を行ないます。
これによって設備投資がパフォーマンスに影響したという因果関係のみを確認できるようになります。
今回の分析においては、2009年度・2010年度・2011年度に設備投資を行なった中小企業の5年後までのパフォーマンスを比較していきます。
また今回の分析にあたっては11の財務指標の変化について分析を行っています。
しかしここでは特に、投資効果に対するパフォーマンスを測定するにあたって、重視すべき経営指標である、
- 売上高
- ROA
- 現預金
- 従業員数
の四つの指標について見ていきます。
また、設備投資を行った企業は、基準年度で資産の合計額に対する設備投資額の割合を算出して上位20%の企業を対象としました。
まず設備投資が売上高に与える影響を確認していきます。
以下の図を見てみると設備投資実施から1年後については、実施企業は非実施企業と比較して、売上高が低下しています。
しかし、2年後以降は増加していることが分かります。
2009年度・2010年度・2011年度の全ての設備投資年度において、2年から5年後のいずれの年度も、統計的に有意な差が得られています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に設備投資後のROAの変化に関してです。
以下の図を見てみると、売上高と同様に設備投資を実施してから1年後に関しては、実施企業は非実施企業と比べて、ROAが低下しています。
しかし2年後以降は非実施企業と比べてROAが改善しています。
特に5年後には2009年度と2010年度、また2011年度の全ての設備投資 年度において統計的にも有意な差が得られています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
更に現預金の変化と従業員数の変化を確認していきます。
以下2つの図を見ると、現預金と従業員数ともに設備投資実施の翌年から増加していくことが分かります。
2009年度と2010年度、また2011年度の全てで、統計的に有意な差が得られています。
現預金の増加においては、売上高とROAが増加していることから、キャッシュフローの改善が寄与した可能性があります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
これまで説明した通り、
- ROA
- 売上高
- 現預金
- 従業員数
の指標で見た場合、投資の翌年においては投資効果が顕在化していない指標があります。
しかし5年後は、いずれの指標においても、統計的に有意な水準でプラスの効果が表れていることが分かります。
しかし、今回の分析ではあくまで投資を実施した企業の平均的な数値が、実施していない企業の平均的な数値より高いことを示すことにとどまっています。
つまり設備投資を行った企業は、具体的な経営目標や戦略を持った上で、設備投資を行なっている可能性があります。
そのため、無計画に設備投資を行なった場合は、必ずしも同様の成果得られるとは限らない点に注意が必要であると言えます。
まとめ
この項の説明において、多様な中小企業の傾向を、CRDデータを活用して財務面から捉えました。
前述ですが、中小企業の主な財務指標から平均値と中央値を算出すると同時に、それぞれの経営指標における中小企業の分布状況を把握しました。
の項では、平均値か中央値を大きく上回り、中小企業の中でも業績に大きなバラツキあることを改めて確認しました。
また2007年度から2016年度までの業績の推移も確認しました。
リーマンショックの後に、赤木企業の割合は減少傾向にあります。
しかし、恒常的な赤字体質企業も一定数存在していることが分かりました。
また純資産の推移から業績を伸ばしている企業とそうでない企業の間で、二極化が進んでいる可能性についても明らかになりました。
さらに債務超過企業に着目した場合に、債務超過が大きいほど業務改善が困難です。
また、債務超過が軽微な段階で経営改善に着手することが重要であるということが分かりました。
そして、傾向スコアマッチングの手法により、設備投資を実施した企業の投資した後の成果の分析を行ないました。
その結果、おおむね5年までには
- ROA
- 売上高
- 現金預金
- 従業員数
について増加することが、統計的に有意な水準で確認されました。
人手不足の状況
近年は少子高齢化を背景に人口が減少してきています。
さらに生産年齢人口が減少しているため、人手不足が深刻になりつつあります。
今後はさらなる人口減少が続いて、人手不足がさらに深刻になることが予想できます。
そのため、日本経済の成長のためには中小企業が、労働生産性を高めて稼ぐ力を強化していくことが不可欠です。
この後では人手不足の実態を確認すると同時に、日本の労働生産性の現状を把握します。
また人手不足の状況下において、雇用確保のあり方についても考えていきます。
深刻化する人手不足の現状
まず、日本の人口推移と年齢別構成比について見てみましょう。
日本の人口は2008年をピークとして2011年以降は減少が続いています。
将来的に減少が継続される予想がされています。
その内訳としては64歳以下の生産年齢人口が減っています。
その一方で75歳以上の高齢者人口の割合が増加し続けていくことが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
就業率という点から考えると、1992年をピークとして減少傾向にありました。
しかし2012年を底にして、それ以降は毎年上昇し続けています。
就業者数も2013年から6年連続で増加しています。
2018年に統計開始以降、最高水準を記録しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
これを性別と年齢ごとに確認していきます。
まず、男女別に見るとM字カーブの谷の部分の女性の25歳から44歳の年齢層において労働参加が進んでいることが分かります。
それと同様に、年齢別に見てみると、特に60歳から69歳の高齢者の中でも比較的若い層でその傾向が強く見られます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして、求人倍率と完全失業率の推移について見ていきましょう。
有効求人倍率と、新規求人倍率に関しては、リーマンショック以降緩やかに上昇し続けています。
有効求人倍率は近年では約45年ぶりの高水準です。
また、新規求人倍率は過去最高水準で推移しています、完全失業率については、リーマンショック以降はほぼ一貫して減少傾向が続きます、近年では約26年ぶりの低水準となりました。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
求人倍率の高まりに関して、事業所の従業者規模別の求人動向を見ていきます。
事業所の従業者規模別の求人数の推移については、
- 500人以上の事業所についてはほぼ横ばい
- 30人から99人と、100人から499人の事業所については緩やかな上昇傾向
にとどまっています。
一方で29人以下の事業所に係る求人数については2009年以降、30人以上の規模の大きな事業所における求人数と比較して大幅に増加しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
ここまでは年齢別人口の推移や雇用の現状について、マクロ的な観点から見てきました。
しかしこれ以降は、中小企業の人手不足感について見ていきます。
景況調査を用いて中小企業の人手不足感を業種別にみると、2013年第4四半期以降すべての業種において人手が足りていないと答えた企業の割合が優勢となりました。
その後も年々人手不足感が高まり続けている状況にあります。
特に建設業やサービス業といった労働集約的な業種において、人手不足感が顕著に表れていることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次にUV分析と言われる手法によって、完全失業率を均衡失業率と需要不足失業率の二つに分解して、構造的な要因による失業と景気変動に伴う実業の二つに分解していきます。
近年について見てみると、需要不足失業率がマイナスとなっています。
そのため企業が人手不足の状況にあると言えます。
このような状況においては、失業が主に職探しや再就職に時間がかかることによる摩擦的な失業や、求人と求職条件が一致しないことによって発生する構造的失業で占められていると思われます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして、職業別や企業規模別の雇用のミスマッチの状況を確認していきます。
職業別求人倍率を2016年・2017年・2018年の3つの年で比較してみます。
管理的職業以外のどの職業についても、求人倍率は増加しています。
そのため、全体的に人手不足感が強まっていることが分かります。
しかし、職業ごとに人手不足の程度には差があります。
最も求人倍率の高い保安の職業の求人倍率が2018年時点で7.8倍となっています。
他方、事務的職業については0.5倍と1倍を下回っています。
このように職業間では、人手不足の程度にばらつきが生じていると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに従業者規模別に大卒予定者の求人数と、就職希望者数の推移を見ていきましょう。
まず就業者数299人以下の企業については、大卒予定者の求人数は近年においては2015年卒から5年連続で増加してきています。
その一方で、就職希望者については2017年卒から減少傾向にあります。
また、求人倍率は2019年では9.9倍ですので、2018年卒の6.4倍から大きく増加していることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に、前職の従業者規模別に見た、現職の企業規模別転職者数の推移について見てみましょう。
従業者数1から299人の企業を中小企業、300人以上の企業を大企業として見ていきます。
まず前職が中小企業だった場合について確認してみると、現職の従業者規模が5から299人の企業への転職者数がほとんど横ばいで推移しています。
その一方で、従業者300人以上の企業への転職者数は増加傾向にあります。
そしてその次に前職が大企業だった場合は、現職の従業者規模が5から299人の企業への転職者数はほぼ横ばいでした。
しかし、従業者300人以上の企業への転職者数は増加傾向にあります。
これらのことから、中小企業が転職先として選ばれにくい傾向にあることが考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
ここまでの説明においては、前職の従業者規模別に見た現職の規模の企業への転職者数の推移を見てきました。
しかし次に、大企業と中小企業への転職者それぞれの転職理由に関して、前職と現職の規模別に確認してきます。
まず大企業から中小企業への転職理由としては、中小企業から転職する場合よりも、「能力・個性・資格を生かせる」と答えた人の割合が高いことが分かります。
また、「労働条件が良い」では、中小企業に転職する場合が、大企業に転職する場合よりも上回っています。
つまり、働きやすさを求めて中小企業へ転職する人が多いことが考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
中小企業の労働生産性の現状
ここまで日本経済の緩やかな回復基調を背景として全体の雇用環境は改善していることが分かりました。
しかし、中小企業を取り巻く雇用環境としては、大卒予定者や転職者の大企業志向の高まりによって、人手不足が深刻化している状況を確認しました。
さらに将来的に人口減少が予想される中、日本経済のさらなる経済成長のために、359万社のうち99.7%を占めている中小企業が、労働生産性を高めることが重要と言えます。
まず、大企業との比較をしながら、中小企業の労働生産性の現状について見ていきます。
大企業に関しては、リーマンショック後に一度落ち込んではいます。
しかし、その後は一貫して緩やかな上昇を続けています。
その一方で中小企業については大きな落ち込みはありませんが、長らく横ばい傾向が続いています。
近年では大企業との差は徐々に拡大してきています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして、中小企業の労働生産性に関して業種別に分解して見てみましょう、建設業や卸売業では緩やかな上昇傾向にあります。
一方で、
- 製造業
- 小売業
- サービス業
上記3つでは横ばいに推移していることが分かります。
大企業との差を埋めるために、既に上昇傾向にある業種の、さらなる進展を支援するべきです。
またそれと同時に、伸び悩んでいる業種を上昇傾向に転換させる施策を講じるべきです。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
さらに2016年から2017年において、労働生産性上昇率の内訳に関して、業種別と規模別に確認していきます。
まず製造業に関しては従業者を増やしたことによって、従業者要因の下げ幅は大企業と中小企業との間で差は生じていません。
しかし付加価値額を伸ばした結果、付加価値要因に関しては約3倍の差が生じています。
非製造業に関しては、中小非製造業は付加価値要因も大企業の半分の水準です。
しかし付加価値要因が従業者要因を上回っています。
これらのことから、労働生産性はわずかに上昇していることが分かります。
次に、日本の労働生産性と労働生産性上昇率に関して、OECD諸国と比較していき、その水準を確認していきましょう。
まず労働生産性に関しては、日本は去年と変わらずにOECD加盟諸国36カ国中21位で、これは首位のアイルランドの約半分程度の水準です。
また労働生産性上昇率に関しては36カ国中29位と低水準です。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
企業を取り巻く労働環境について
ここまでの説明で、日本の中小企業が直面している人手不足の状況を見てきました。
次に求人に大きな影響を及ぼす、雇用環境の現状について見ていきましょう。
前述の図に関して、前職と現職の従業者規模別の転職理由の割合について確認しましたが、大企業と比較して中小企業は収入面に期待して転職する割合はあまり高くありませんでした。
そこで企業規模別の給与額の推移について見てみます。
中小企業の給与額は2010年以降徐々に上昇し続けています。
しかし、大企業の給与水準との格差は埋まらずに推移してきています。
そのため、大企業の水準に近づけることが人手不足解消の一つの鍵と言えるでしょう。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
給与額の推移に関しては、従業者規模別に賃上げ率の推移について見ていきます。
ここ最近の20年間に関しては、299人以下の企業の賃上げ率は2010年頃から上昇傾向にあります。
また、それ以上の規模の企業の賃上げ率をおおむね下回っています。
そのため、従業者規模による格差は拡大していると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
ここまでは、中小企業の賃金が伸び悩んでいる状況を確認してきました。
そこで企業活動基本調査を使って日本における実質労働生産性上昇率と実数賃金上昇率の関係について見ていきましょう。
次の図を見てみると、両者には正の相関があります。
実質労働生産性上昇率が高まると実質賃金上昇率も高まることが分かります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
これらの賃金に続いて、休暇取得状況についても見ていきましょう。
まずは、従業者規模別の年間休日総数の企業割合について見てみます。
以下の図を見てみると、年間休日総数が109日までの場合、どの日数においても従業者規模が小さい順に取得割合が高まっていることが分かります。
これと反対に、年間休日総数が110日を超えた場合、従業者規模の大きな順に取得割合が高くなっていることがわかります。
つまり規模の小さな企業ほど有給休暇等の取得が進んでいないと考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
続いて次の図で、企業規模別に労働者1人当たり平均年次有給休暇の取得日数の推移について確認していきましょう。
直近10 年について推移を見てみると、従業者規模1,000人以上の企業が足下でやや強含みで推移しています。
また、999 人以下の企業については取得日数が少ないまま横ばいで推移しており、規模の小さい企業ほど有休取得が進んでいないことが考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして最後に、企業規模別に特別休暇の利用企業割合について見ていきます。
以下の図を見ると、夏季休暇については従業者規模間における差は比較的小さいです。
しかし、
- 病気休暇
- リフレッシュ休暇
- ボランティア休暇
においては、従業者規模間における差が顕著です。
そのため、中小企業にはまだ改善の余地があると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
新たな雇用の担い手
ここまで見てきたように、規模の小さな企業の雇用環境は、規模の大きい企業との差異があります。
しかし、そのような環境において採用対象者を工夫することにより、人手不足に対応している企業も存在します。
具体的に言うと、これまで社会進出が進んでいない女性の雇用を増やす手段が挙げられます。
以下の図を見てみると、直近10年間では、特に非正規雇用の形態において女性の雇用者数が増加していると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして今まで社会進出の進んでいなかった層として、六十歳以上のシニアも挙げられます。
シニア層に関しても女性と同様、非正規雇用における雇用者数が増加しています。
つまり、ライフスタイルに合わせて柔軟に働いたり、無理がない程度に働く事により、社会進出を進めていると考えられます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次の図で、新規大卒予定者に関して、規模の小さな企業への希望者数が年々減りつつあることを確認しました。
しかし、非正規という形で女性やシニアの労働者数が増えている事が見えてきました。
そのため採用方法は、新卒の正規雇用に限られません。
人手不足への対応策の最後として、常用労働者の中途採用事業所割合の推移を確認していきましょう。
直近10年間の推移について見てみると、中小企業の中途採用事業所割合は増加傾向にあります。
このことから人手の足りない事業所においては、中途採用という形態で人を雇うことも対策の一つとなっている可能性が推測されます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
まとめ
ここまでの説明で、少子高齢化を原因とする人口減少と年齢構成の変化について見ました。
そして、就業率の上昇により就業者数自体が増加傾向にあることを確認していきました。
さらに、求人倍率は年々上昇傾向にあり、従業者規模別に見た場合に、規模の小さな従業者ほど求人数が多く、人手不足の状況にあります。
さらに業種別にみた場合に、人手不足の度合いに差が生じていることも分かりました。
このような人手不足の状況において、中小企業の労働生産性について考えると、伸び悩んでいることが分かります。
また企業全体で見た場合、OECD加盟諸国の中においても、日本は低い水準に位置しています。
そこで、全企業数の99.7%を占めている中小企業の労働生産性を上げることが、緊急課題であると言えます。
労働生産性向上のカギである労働環境については、まず賃金が伸び悩んでいます。
また、休暇取得状況に関してもまだ改善の余地があります。
そのため、働きやすさを求めて中小企業に転職してきた人を離さずに、中小企業が稼ぐ力を身につけるべきです。
また、さらに労働生産性を向上させるためには、これらの課題に向き合った労働環境作りが重要と言えます。
事例
フルヤ工業株式会社
外国人人材の受入れを、高度人材へと拡大
兵庫県篠山市のフルヤ工業株式会社は、あらゆる業種のプラスチック製品を取り扱っている製造業者です。
この会社の規模としては、従業員数148名、資本金4500万円です。
様々なプラスチック特殊射出成型技術を駆使して、製品企画から設計開発まで提案できる点がこの会社の特徴です。
1998年創業の同社においては、ベトナム人受け入れに関して15年の歴史があります。
2002年に降矢寿民社長は、ある海外研修会でベトナムを初めて視察しました。
その時にベトナム人の器用さと、真面目さに感嘆しました。
帰国した後にDMにより、ベトナム人の外国人技能実習制度を知って、ベトナム人を受け入れの検討を始めました。
しかし、外国人受け入れのノウハウがなかったので、まずベトナム人を受け入れている取引先を探して見学をしました。
その結果、自社でも受け入れられそうだと判断したので、ベトナムの人材紹介機関に紹介を依頼し、2003年には技能実習生を2名受け入れることにしました。
受け入れ前は現場に不安の声が多かったそうです。
しかし、実際に受け入れてみるとベトナム人の働きぶりへの評価が高く、人数を増やすこととなりました。
この会社では、週1回定刻後に日本語教室を継続して開いています。
また総務の社員が隙間時間に日本語の個人指導を行っており、彼らの言語の習得支援に積極的に取り組んでいます。
日本での技能実習を終えてから、ベトナムに戻ると、この会社と似たプラスチック事業を立ち上げた人もいます。
つまり、この会社の技能はベトナムでも活用されているのです。
現在では28人のベトナム人技能実習生が、同社で活躍しています。
また同社は高度外国人材も受け入れています。
2008年に、ベトナム人技能実習生のコミュニケーションを円滑にするために、技能実習生の面倒をみることが可能な、ベトナム技術者を正社員として採用しました。
さらに、2017年に国内で確保できなかった、金型の技術者を1人採用しました。
この金型の技術者は、付き合いのあるベトナム人材紹介機関に相談して、日系企業に勤務している金型技術者の紹介を受けて、実際に現地における勤務ぶりを見学した上で採用を決めました。
その当時は企画と設計を顧客に提案できる水準ではありませんでした。
しかし、金型の知識や機械操作に問題はありませんでした。
現在においては日本語もマスターして、同社の企画と開発に欠かせない一流の技術者となっています。
現地における面接の時に、この金型技術者の奥さんと子供も一緒に日本で生活することを勧めていました。
降矢社長が「高度外国人材は、日本国内での転職が自由なため、技能実習生以上に配慮している。
奥さまが安心して生活できることがエンジニアの長期就労につながると考えている。」と語っています。
初めての日本でも言葉がままならない状態では精神的に落ち込みやすいです。
そのため、一緒に来た妻も雇用することで、ベトナム人技能実習生と交流できる機会を設けました。
同社では日ごろから積極的な声かけをするなど、ベトナム人のストレス解消や日本人との融和に配慮しています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
開廃業の状況
ここまでの説明においては、企業数の変化に関連して、開廃業の与える企業数や就業者数への影響についての分析を行ないました。
これ以降では、厚生労働省の雇用保険事業年報を用いて、日本の開業率と廃業率について現状把握を行なっていきます。
開廃業の動向
開業率と廃業率の推移に関しては、日本の開業率は1988年をピークとして減少傾向に転じています。
そして、2000年代を通じて緩やかな上昇傾向で推移し、近年では5.6%となっています。
一方で廃業率に関して見てみると1996年以降増加傾向が続いていました。
しかし、2010年に減少傾向に転じました、最近では3.5%となっています。
2000年から2010年に掛けては開業率も廃業率も共に4%台で推移していました。
しかし2010年以降はその差は徐々に拡大していっています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
また、諸外国の開廃業の推移と日本の開廃業の推移を国際比較してみます。
まず開業率については、
- 最も高いフランスでは13.2%で、
- 最も低いドイツでも6.7%と、
- 日本の5.6%を上回っています。
廃業率に関しても、
- 最も高いイギリスで12.2%、
- 最も低いドイツで7.5%と
- 日本の3.5%を上回っています。
日本と各国の統計の方法が違っているために、単純な比較ができません。
しかし国際的に見ると日本の開廃業率はかなり低水準であることがわかります。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
そして、開廃業率を業種ごとに見た時の、分布状況を確認してみましょう。
開業率については建設業が最も高く、また事業所の数も多いので全体の開業率を押し上げています。
それと反対に製造業の開業率が最も低く、事業所の数も多いので全体の開業率を押し下げています。
また廃業率に関しても開業率に比べて、業種ごとの差が小さくなっています。
しかし、宿泊業や飲食サービス業、または小売業は廃業率が高く、事業所も一定数存在しているため、全体の押し上げ要因となっています。
医療や福祉業に関しては廃業率が低く、事業所数が多いので全体の押し下げ要因となっています。
開業率と廃業率の二つを軸に見てみると、宿泊業と飲食サービス業は開業率と廃業率の両方が高いです。
事業所の入れ替わりが頻繁に行われていると言えます。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
次に都道府県別の開廃業率についてです。
開業率に関しては、沖縄が最も高く、9.3%です。
その次に埼玉、さらに東京と、首都圏の都道府県で高い数値が確認されました。
開業率が最も高い沖縄においては、宿泊と飲食サービス業の事業所構成比が高いです。
そのため業種構成比が、県別の開業率に影響を与えていることが考えられます。
廃業率が最も高い県は富山県で、4.3%でした。
その次に茨城県、大阪府と続いています。
出典
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
ここまでの開廃業に関する指標の最後として、休廃業と解散件数の推移について確認していきます。
株式会社東京商工リサーチの2018年休廃業と、解散企業動向調査を見てみると、経営者の高齢化や後継者不足を背景として休廃業や解散企業は年々増加傾向にあり、3万件台から4万件台へと推移していってることが分かります。
まとめ
近年では日本の開業率は上昇傾向にあります。
その一方で、廃業率は減少傾向にあります。
そして、国際的な比較をすると、いずれも日本は低水準であるといえます。
それと同時に、開業率や廃業率の両方が、業種や地域でばらつきがあるのが現状です。
ここまでの説明が、中小企業に関する経済動向の説明でした。
次に中小企業の経営者達が直面している、事業承継の課題に関するこちらの記事も併せて読むことで、社会経済への理解がより深まります。
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